プロジェクトの背景・概要
ワールド・ビジョン・ジャパンは2022年、2023年の活動でシリア北央部の学校修復支援事業を実施しております。2024年度本プロジェクトでは、シリア北央部の学校計6校で大規模な修繕・増設を行いました。
支援事業地であるシリア北央部には約20万人が暮らしており、うち11%は2011年3月のシリア危機発生後に 空爆等を逃れ、転々と避難を繰り返して辿り着いた国内避難民です。シリア危機発生後、多くの人々は生計手段を失うなどして収入が激減し、水道や医療機関へのアクセスも確保できない状況に陥りました。紛争により学校などのインフラは破壊され、さらに2023年2月に発生した地震によって甚大な被害がもたらされました。しかしながら、シリア北央部には国際的な注目が集まりにくく、支援が圧倒的に不足する「支援の空白地帯」となっています。
シリア北央部の子どもを取り巻く教育環境は、非常に厳しい状況です。校舎の損傷により自宅の近くに学校がなくなってしまったため、子どもたちは遠方の学校への通学を余儀なくされ、交通費が家計の負担になるために通学をあきらめざるを得ない子どもが多くいます。また、比較的損傷の少ない学校では、児童・生徒の過度な集中が起こり、教室の過密状態や不足を招いています。さらに、学校において飲み水やトイレへのアクセスが十分でないことも、子どもたちや教員に大きな困難をもたらしています。特に女の子の場合、学校に使用可能なトイレがないことへの懸念から「学校に通わせたくない」と考える保護者も多く、女子が学校を中退する要因となっている可能性が指摘されています。障害を持つ子どもたちにとっても、水衛生設備の欠如は学習機会を妨げる大きな障壁です。 シリア北央部の学校では、長期化した紛争と先の大地震の影響により、約35%の教室が設備や備品の整備、または修繕を必要としています。また、約6割の学校は水へのアクセスがありません。適切な量の飲み水がある学校は8%、適切な量のトイレの水がある学校は7%であり、シリア北部の他の地域と比較しても低い値となっています。学校における多くの水衛生設備(トイレ、手洗い場等)も、破壊や劣化のため使えない状態にあります。大部分の学校が修繕を必要としていますが、資金不足のために校舎やトイレは壊れたままの状態となっています。
前述の状況を改善するため、本事業では、シリア北央部地域ハサケ県、ラッカ県の紛争や地震の被害を受けた6校において、校舎の修繕および、トイレ・手洗い場の修繕と増設をし、劣悪で危険な環境で学んでいる子どもたちの教育環境の大幅な改善を目指しました。
学校建設完成
修繕した校舎(トゥルクマーン・ガルビー学校)
校舎入口の修復した階段と設置したスロープ(ミシュレフェ・アルハスーン学校)
校舎入口の修復した階段と設置したスロープ(トゥルクマーン・ガルビー学校)
■支援事業による効果
本事業では、支援事業地において学校整備の必要性に関する評価を実施し、現地の教育局との調整を経て事業対象校を紛争や地震の被害を受けた6校を選定しました。結果として、計画通り6校において、校舎の修繕およびトイレ・手洗い設備の修繕・増設を実施することができました。また、効率的な資金活用により、追加支援として全対象校に教室内備品や消火器、プリンタ等の学校備品を提供しました。さらに、児童・生徒の通学を促進するために、サッカーボールや縄跳び、チェスなどの運動・知育教材を提供しました。また、校内整備完了後、現地政府当局との調整の上で学校再開の式典を開催し、子どもたちや関係者とともに喜びを分かち合いました。
修理・洗浄されて清潔になった廊下(カッタル学校)
設置されたソーラーパネル(ウンム・イザーム学校)
■支援事業終了後の持続性
本事業の計画は、教育局をはじめとする地元当局との連携・調整のもとで策定し、当局の意向を尊重することにより、成果の持続性を高めています。教育局は、ワールド・ビジョンに対して校舎の修繕・増設を中心とする支援を要請する一方、引き続き、教育局が可能な限り学校備品の提供に取り組んでいくことを約束しました。また、修繕した校舎と設備の状態の確認と維持管理は、教育局に引き継がれました。 カッタル学校とウンム・イザーム学校は電力供給網から遠く離れており、本事業以前は電気を利用していませんでした。そのため両校にはソーラーパネルを提供し、持続可能なエネルギーを利用して無料で電気を使えるよう支援しました。修繕・増設された手洗い場やトイレなどの衛生設備が、持続的かつ効果的に使用されるよう、ワールド・ビジョンは他の資金(ドイツ連邦外務省の助成金を活用して、事業対象校で衛生促進活動と衛生教材の配布を実施しました。こうした活動により、事業終了後も衛生設備が児童・生徒と教師によって適切に使用されることが期待できます。
設置された記念プレート
授業中の様子
(アブ・シャーハート学校)
現地の声
修繕された教室で学ぶ児童
(トゥルクマーン・ガルビー学校)
授業を受ける児童たち
(トゥルクマーン・ガルビー学校)
「校舎が修繕される前は、窓やドアが壊れていていつも開けっ放しだったので、冬は寒くて学校をサボっていました。でも、修繕後の教室は暖かく快適で、学校を休もうとは思わなくなりました」
(児童・生徒)
「学校がより安全な施設になったので、定期的に通う意欲が高まりました」
(児童・生徒)
「校舎が新しくなったので、学校に来るのがとても楽しみになりました」
(女子児童・生徒)
「子どもたちが毎日意欲的に学校に通い、きちんと授業を受けるようになったので、その変化に気付きました。また、新入生が学校に来るようになり、子どもたちは新しい友達を作っています」
(保護者)
「私にはアレルギーがありますが、修繕・増設後はアレルギーの症状に悩まされることがなくなり、指導能力が向上し、より充実した授業を行えるようになりました」
(教員)
「以前の学校はひどい状態で、怖かったです。コウモリだけでなく鳥が出てくることもありました。でも、今の学校はとてもきれいなので、人生への希望が持てます。今は学校が大好きです。以前は、爆撃のせいで学校が好きになれず、休学していました。学校の修繕後は、色々なことが変わりました。たとえば、以前はとにかく怖かった!でも今は、扇風機や暑い日差しを遮るカーテンもあるし、教室自体もきれいですごく立派です。それと、学校には飲み水もあります。以前は水がなかったので苦労していました。とてもよい環境で学べるようになったので、希望が湧いてきました。今では、負傷した人々の治療をする医者になるという夢も持っています」
(カッタル学校小学3年生)
「紛争のせいで勉強ができなくなって、1年半休学していました。以前は、学校にコウモリがウヨウヨしていたし、壊れたドアや窓からよく風が吹きこんできました。でも、今の学校はきれいだし、すごく立派!水道が使えるし、清潔になったし、窓も修理されました。以前はコウモリが棲みついていたのに、本当にすごいことだよ」
(カッタル学校小学6年生)
「2007年から教師をしており、2年生の子どもたちを教えています。この学校は、皆さまのおかげで修繕されました。以前は 窓やドアなど、建物に多くの不備があり、ひどい状態でした。そのような環境で教えるのは困難で、やる気をなくしてしまいます。でも、今では大きく改善されています!扇風機や電気や水道を利用できるようになり、学校全体が修繕されて、とても助かっています。皆さまの多大なご支援のおかげで、中退する子どもの数も減りました」
(カッタル学校小学2年生担当の教員)
学校建設プロジェクト
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